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 山を歩きながら見る景色は、常に雨や風の影響を受けながら、砂や土が重なり、削られ、刻々と変化し続けている。遠くから見る穏やかな山も、実際に木々の間を歩き、稜線まで出ると、湿度や匂い、気温などを肌で感じ、長い時間の経過の中にその景色があることを実感する。日本画の制作においても、同様の現象を感じることができる。物質に抗わずに、和紙に墨を滲ませたり、岩絵具を重ねて削ったりしながら、周囲の湿度や気温、重力を感じ、偶然できる形に少しだけ手を加えて、形を描き出す。画面の表面だけに触れているのではなく、そこに和紙の厚みを感じ、痕跡を残していく。その過程は、木々の間を歩き、足跡を残していくようでもある。
 山水画は、中国で発展した絵画のジャンルで、その表現や哲学を更新しながら、北宋時代には表現が確立されている。日本でも中国の影響を受けながら制作されていたが、明治以降はほとんど描かれなくなっている。山に登るフィールドワークを元に、墨と岩絵具という天然の素材に最小限の手を加え、自然の素材や周囲の環境と関わりながら、山脈で起きている自然現象を追体験するように作っていく。その結果を現代の山水画として提示する。

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